法律学修よもやま話

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民訴法001 審理の準備・時機に後れた攻撃防御方法

※以下、特記なき限り、民事訴訟法は法令名を略し、民事訴訟規則は「規則」と略する。また、三木ほか「LEGAL QUEST 民事訴訟法」(有斐閣、第3版、2018年)は「リークエ民訴」と略する。

※このページの引用・参考にあたっては、「はじめに」の「おことわり」を参照ください。

 

1. 準備書面

準備書面とは

準備書面とは、「口頭弁論や弁論準備手続などの期日における当事者の論述の内容を相手方に予告する書面」である(リークエ民訴180頁)。

  • 機能…当事者が次回期日の陳述内容を事前に予告することで、相手方はその認否や反論、裁判所は訴訟指揮の準備をそれぞれすることができ、迅速かつ充実した手続の進行が可能となる。
  • 問題点…口頭主義の形骸化の一因となっている。

なお、審理方式による提出の要否の違いについては、下記の通りである。もっとも、弁論準備手続においても、「ほぼ例外なく期日ごとの準備書面の提出が行われている」という(リークエ民訴180頁)。

審理方式 準備書面の提出の要否
口頭弁論
148条以下)
簡易裁判所 不要(276条1項
その他 必要161条1項
準備的口頭弁論(164条以下) (口頭弁論の場合と同様)
弁論準備手続(168条以下) 義務化可能(170条1項

準備書面の記載事項

準備書面に記載する事項は、次の2つとなる。

  • 「攻撃又は防御の方法」(161条2項1号
  • 相手方の請求及び攻撃防御方法に対する陳述(同項2号) 

記載に当たっての必要事項は、規則79条2項ないし4項を参照のこと。

訴状や控訴状などは準備書面ではないものの、上記事項が記載されている場合は「準備書面を兼ねるもの」とされる(規則53条3項)。

また、ここでいう「攻撃又は防御の方法」とは、事実に関する主張のみならず、法律上の主張や証拠に関する主張なども広く含む。 

準備書面の提出とその効果

準備書面は、「これに記載した事項について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて、裁判所に提出しなければならない」(規則79条1項)。また、裁判長は、準備書面の提出すべき期間を定めることができる(162条)。

準備書面の提出による効果は、次の2つとなる。

  • 擬制陳述が認められる(158条、170条5項)。
  • 原告は、被告が本案について準備書面を提出した後には、被告の同意を得なければ、訴えの取下げの効力が生じない(261条2項)。

擬制陳述とは、「準備書面を提出した当事者が最初の口頭弁論期日や弁論準備手続期日に欠席した場合、あるいは出席したが本案の弁論をしない場合においても、準備書面に記載しておけば、その事項は陳述したものとみなされる」ことである(リークエ民訴182頁)。なお、簡易裁判所の場合は、最初の期日に限らず擬制陳述が認められる(277条)。

  • 趣旨…原告が欠席しても訴訟が進められることと、被告にも擬制陳述を認め当事者の均衡を図ることにある。

 

2. 争点整理手続

争点整理手続の目的と機能

  • 目的は次の3つとなる。
  1. 争点の範囲の縮小…真の争点への絞り込み
  2. 争点の中身の深化…争点の中身を間接・補助事実へと展開させる
  3. 集中証拠調べで必要とされる証拠の整理
  • 機能…訴訟開始後、早期に当該手続を実施することで、「裁判所と当事者との間で主要な争点と重要な証拠が何であるかを明確にし、…整理された争点に的を絞った証人尋問等を集中的に行うことによって、適切かつ迅速な紛争解決を図る」(リークエ民訴183頁)。

ここでいう「争点」とは、当事者間に争いのある事実(主要事実のほか、間接事実や補助事実も含む)をはじめ、法律上の争い(条文解釈等)も含まれる。一方、当事者間に争いのない事実は、訴訟上の自白として証明を要しない(159条1項、179条)から、原則として争点には含まれない。

争点整理手続の種類

争点整理手続の種類は、次の3つとなる。

  1. 準備的口頭弁論(164条以下)
  2. 弁論準備手続(168条以下)
  3. 書面による準備手続(175条以下)

弁論準備手続

弁論準備手続とは、「口頭弁論期日以外の期日において、受訴裁判所または受命裁判官が主宰して行う争点整理手続」ことである(リークエ民訴186頁)。

弁論準備手続の流れ

「裁判所は、争点及び証拠の整理を行うため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、事件を弁論準備手続に付することができる」(168条)。

弁論準備手続に付する裁判の取消しについては、下記の通りである(172条)。

  • 申立て又は職権…可能的取消し(同条本文
  • 当事者双方の申立て…必要的取消し(同条ただし書

弁論準備手続の手続主体は受訴裁判所であるが、受命裁判官に行わせることもできる(171条1項。受命裁判官の権限につき同条2項及び3項)。

また、弁論準備手続では、下記の事項を行うことができる(リークエ民訴187頁)。

主体 事項
当事者 準備書面の提出(170条1項)、事実上・法律上の主張、証拠の申出、訴えの取下げ(261条3項)、訴訟上の和解、請求の放棄・認諾(266条1項)などの訴訟行為
裁判所 釈明権の行使、釈明処分、弁論の制限・分離・併合、攻撃防御方法の却下、準備書面等の提出期間の裁定、和解の勧試(89条)などの訴訟行為
「証拠の申出に関する裁判その他の口頭弁論の期日外においてすることができる裁判」(170条2項

一方、証拠調べは原則として実施できない。ただ、争点整理には書証の認否を検討することが不可欠であることから、文書の証拠調べは例外的に実施できる(170条2項)。

関係者公開―公開主義との関係

弁論準備手続は、口頭弁論ではないから非公開が原則とされるようにみえるが、実際には一定の関係者に公開が認められる。

つまり、裁判所は、169条2項により、下記の通り傍聴を許す場合がある。

  • 相当と認める者の傍聴…許すことが可能(同項本文
  • 当事者が申し出た者の傍聴…「手続を行うのに支障を生ずるおそれがあると認める場合」を除き、許さなければならない(同項ただし書

ここでいう「相当」とは、個々の事件によって異なるが、一般論として「当該事件またはその争点に一定の利害関係を有しており…、その者の傍聴により手続に支障を生じるおそれがない場合」とされる(山本和彦「弁論準備手続」ジュリ1098号57頁)。

また、「手続を行うのに支障を生ずるおそれ」は、物理的な支障と心理的な支障とに分類され、前者は当然の傍聴障害事由としつつ、後者については「客観的状況から正当なものと認められ場合」に当該事由となるとされる(山本・前掲)。

交互面接方式の可否―双方審尋主義との関係

弁論準備手続は、「当事者双方が立ち会うことができる期日において行う」と規定されている(169条1項)。同項を双方審尋主義の表れとみる向きもあるが(リークエ民訴188頁)、少なくとも当事者双方の同席による審理を原則としているように見受けられる。よって、交互面接方式は原則として許されないと考えられよう。

このとき、交互面接方式が一切禁じられるかについては、当事者の同意のうえ、裁判所の要請に応じて一方当事者が任意に退席する場合であれば、当該当事者による立会権の放棄と構成し、適法であるとする立場が多いとみられる。

弁論準備手続の終結とその効果

弁論準備手続は、口頭弁論における「証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認する」ことができた段階で終了する(170条5項、165条1項)。裁判長は、相当と認めるときは、当事者に弁論準備手続の結果を要約した書面を提出させることができる(170条5項、165条2項)。

また、弁論準備手続が終結した場合、(続いて行われる)口頭弁論において、当事者は、弁論準備手続の結果(特に、証拠調べにおいて証明すべき事実は何か)を申述しなければならない(173条、規則89条)。これは、実務上「口頭弁論への上程」と呼ばれ、直接主義、あるいは口頭弁論の原則の要請(87条本文)を満たし、弁論準備手続で提出された資料を訴訟資料とするための措置とされる(リークエ民訴190頁)。

なお、「弁論準備手続報告書」と題する私製の書面が書証として提出された場合、これを証拠として採用することはできない。東京地裁は、私製の報告書は正確性が担保されておらず、「外形上その事実が存したかのように作出する点において訴訟当事者間の訴訟上の信義則にも悖るものである」ことを、報告書の証拠適格否定の根拠としている(東京地裁平成12・11・29判タ1086号162頁)。

 

3. 時機に後れた攻撃防御方法

時機に後れた攻撃防御方法の趣旨と機能

時機に後れた攻撃防御方法(157条)の趣旨と機能は、下記の通りとなる。

  • 趣旨…当事者の信義誠実義務(2条)違反に対するサンクション
  • 機能…適時提出主義156条1項)の実効性を支える

旧法下では、随時提出主義が採用されていたが、争点や必要な証拠が明らかにならず散漫な審理となり、円滑な審理が妨害されるおそれもあった。よって、適正・充実・円滑な審理を目指し、平成8(1996)年改正により、適時提出主義が採用されるに至った。

時機に後れた攻撃防御方法の要件

時機に後れた攻撃防御方法の要件は、次の3つとなる(157条1項)。

  1. 攻撃防御方法の提出が「時機に後れ」たこと
  2. 時機に後れたことが当事者の「故意又は重大な過失」によること
  3. これを審理すると「訴訟の完結を遅延させることとなる」こと

ここでいう「時機に後れ」たとは、「より早期の適切な時期に提出できたこと」を意味する(リークエ民訴192頁)。弁論準備手続を行っていた場合は、特段の事情がない限り、時機に後れたと判断される(故意又は重過失に結びつける見解もある)。控訴審における判断については、続審制が採られている以上、第一審からの手続きの経過を通じて判断すべきとされる(最判昭和30・4・5民集9巻4号439頁)。

また、「訴訟の完結を遅延させる」とは、当該攻撃防御方法を却下した場合と審理した場合とに予想される手続期間(訴訟完結の時点)とを比較して判断する、いわゆる絶対的遅延概念が通説・実務上採用されている(⇔相対的遅延概念)。

なお、下記の事項は攻撃防御方法に該当すると考えられている。よって、いずれも上記要件を充足すれば、時機に後れた攻撃防御方法として許されないことになる。もっとも、自白の撤回については、そもそも自白とその撤回の要件が充足しているか否かに注意する必要がある。

  • 純粋な法律上の陳述(東京地判平成13・11・9判時1794号45頁
  • 自白の撤回…それ自体が当事者の主張の一つとして該当

争点整理手続後の攻撃防御方法の提出

準備的口頭弁論または弁論準備手続の終了後に攻撃防御方法を提出した当事者は、相手方の求めがあるとき、相手方に対し、その終了前に提出できなかった理由を説明する義務が生じる(167条、170条5項)。書面による準備手続の場合にも同様の規定がある(178条)。

なお、当該説明は、期日において口頭でする場合を除き、書面でしなければならないとされる(規則87条1項、90条、94条1項)。